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風のとおり道

ジブリの小説ブログです。

みんなでお茶を(ナウシカ)

ジブリ

それは、ある晴れた昼下がり。

城おんじたちがテーブルを芝生に並べています。彼らはお茶の準備をしているのでした。ナウシカがこのところ研究に没頭していて、庭に出てこないのです。彼らは心配して、今日は天気がいいので、ティーポットを並べています。谷ではお茶はチャイと呼んでいて、茶葉は土鬼の商人の隊列から買うことが多いのでした。じいたちのお気に入りは、黒スグリのジャムで、香ばしく焼いたナンに少しつけて食べます。歯がすっかりなくなっているのっぽの爺は、そのジャムをたくさんつけて食べるのを、城おばたちから止められているのでした。太ったおんじが茶碗を手で温めながら、言いました。

 

ナウシカはまだ来んのかのう。」

「この前腐海で珍しい植物を手に入れたと言っていたから・・・それにしてもあんな地下倉にこもっているのは、空気もよくないしわしゃあの部屋を作るのは反対じゃったんじゃ。元はというと姫様がどうしてもと言わなければ・・・。」

「そうさのう。あの部屋を作るのは大変じゃったからのう。」

「石を組むだけでも大変なことじゃったわいのう。それでも姫様のたっての望み・・・・断るわけにはいかなかったのじゃわい。」

「それにしてもあの植物、大丈夫かのう。」

「実験じゃと言うとるけど、毒はほんとに絶対に出ないのかのう。」

「そうそう、それじゃわい。わしもそれが気になっとるんよ。土が腐っとるから、いけないんじゃと言うので、城の井戸の底から土をな、ざるであげて入れたんじゃが・・・・あの作業も大変じゃったわいのう。」

「それも姫様のたっての望み・・・・。断るわけにはいかんかったのよ。」

「まあまあ姫様も手伝ったんじゃから、そう言うな。」

「しかしあの研究いつまで続くのかのう。」

「しっ、一応これは秘密のことなんじゃ。あまりべらべら話すんでないわい。」

「しかしもし失敗していたら、大事じゃったわなあ。城の地下に腐海が広がるなんて、ぞっとせんわい。」

「しかし姫様はどこであれがわかったんじゃろうのう。」

「うーん・・・・それは教えてくれんのよ。何かがあって、ああしたことをはじめたと思うんじゃが・・・。」

 

城おじたちは声を潜めて話し合っています。ナウシカはまだやって来ません。そのとき、庭に通じる青い木の戸を開けて、あの小僧が入ってきたではありませんか。

 

ナウシカは?あれ、いないの?」

 

ペジテのアスベルでした。ナウシカとのいきさつについては、城おじたちも話は聞いています。また彼が今、ユパの元で修行をしていることも知っている城おじたちでしたが、やはりナウシカに最近近づいた若者ということで、目を光らせているには違いない爺たちでした。ひとりの爺はこほんと咳払いをし、アスベルに言いました。

 

「姫様はここにはおらんわい。残念じゃったな。姫様は今、野原に花を摘みに行っとる。」

「え、川屋にいるってことかな?」

「ななな、なにを言うんじゃ失敬な。なんと下品な小僧じゃ。」

「あ、違ったんだ。なんかまた腐海に用事?大変だね。」

とアスベルがナンに手を伸ばすのを、爺のひとりはぴしゃりと手でたたきました。

「だまらっしゃい。おまえさんが何かをあの事件で腐海で見せたから、姫様は前よりもあそこにこもるようになってしまったんじゃわい。」

「別になんにも見せてないけど・・・・。あああれかな?ナウシカ腐海の底で草が生えていたのを喜んでいたんだ。」

「そうそう、それじゃ。確かに大発見かもしれん。しかしそれは、危険なことなんじゃ。」

「そうなの?別にいいじゃない。腐海も場所によっては普通の草が生えることもあるんだ。それがわかったのはいいことじゃないかな?」

「う・・・・う・・・・確かにそうじゃが・・・・危険が危ないんじゃ!」

 

城じいのひとりはそう大声でどなって、肩で息をつきました。この事態に興奮してしまったのでした。彼にとっては、姫様が腐海のガスを吸って、あの研究室で倒れることが一大事だったのです。アスベルがそれをこともなげに言うことが、彼には信じられないことなのでした。アスベルはそこで椅子にどすんと座ると、言いました。

 

「実はさ。あの研究は少しペジテでもしていたことがあったんだよ。で、あのぐらいなら大丈夫だと思って僕は言ってるんだ。」

「な、なんじゃと?」

ナウシカの大発見なんだから、言っちゃだめだろ?それでさ、あの部屋ここのおじいさんたちで作ったのかな。大変だったんだよね?」

「見たのか、小僧。」

「うん、はじめに城に案内されたとき、通されてさ。今私の考えている研究、って言われてさ。悪いと思ったから黙ってたんだ・・・。ナウシカはさ、感激屋さんだろ?すでによそで研究が進んでいるとか言ったら、がっかりして落ち込むんじゃないかって。」

「姫様はそんなことではびくともせんわい。」

「そうかなあ・・・・ナウシカにとっては、あれはもう生活の一部なんだ。それを取り上げるようなことを言うのは、僕は気が進まなくてさ。」

「むぅ・・・。」

「それにペジテは蟲の大群を使って谷を攻撃しようとしたことがあるだろ?言いにくくてさ。」

「まあそういうこともあるんじゃろうのう・・・・ペジテは工房で巨神兵の研究もしていたんじゃからの。」

「うん。」

「それにしても小僧、ぬけぬけと言い寄るの。まるでナウシカの亭主気取りなセリフじゃ。」

「気に障ったかな?」

「もちろんじゃ。おまえには百年早いセリフじゃわい。ユパ様から言われたなら、わしもここまで腹立ちはせん。」

「だってナウシカはいつもひとりきりだろ?もっと彼女の立場に立ってあげる人がいないとさ。まあ姫様だから仕方ないのかもしれないけど。」

「わわわわしらがいつ姫様をひとりにしたと言うんじゃ!」

「姫様だから、遠慮してお茶にも誘えないんだろ。今だって地下室でまだあの研究しているんじゃないのかな。」

「小僧~。」

「僕呼んでこようか。」

 

そこで爺のひとりは立ち上がり言いました。

 

「姫様は谷のことを思って、少しでも作物が被害にあわないように、ああした研究をずっと続けて・・・。」

「そりゃ僕もわかってるよ。だから言うのは悪いと思うんだけど・・・・あの研究だけど、腐海の植物を普通に毒なしで育てるには、畑の土を全部入れ替えなきゃだめだ。それは無理だろ?誰かが姫様にそう言わないとね。」

「そんな・・・・めっそうなこと、言うものでない。」

「先がない研究だからペジテでも放棄したんだ。爺たちの誰かがナウシカに言ってやれよ。」

「おまえが言え!」

「僕はいやだってさっき言った。」

「ぬわんだとぅ~小僧~。」

「君たちの姫様なんだろ?」

「おまえだけいいところを取るな。」

「そりゃこっちのセリフ。僕はこれ以上ナウシカに迷惑をかけたくないよ。あの事件でペジテは風の谷にひどいことをしたんだから。」

「だからってわしらに嫌な役を押し付けるな!」

 

その時でした。

「あらっ、みんなそろってお茶しているのね。私も飲んでいいかしら。」

ナウシカでした。一同はしん、となりました。

「今の話・・・聞いてたの?」

アスベルが心配そうに言うのを、ナウシカは微笑んで言いました。

「ちょっとね。ちょっとだけ。」

爺のひとりが心配して言いました。

「姫様・・・・落ち込まんでください。この小僧が。」

「うん。知ってたわ。」

「えっ。」

「ユパ様から聞いたことがあったの。少し・・・・昔ね。それでね。あなたの妹さんがね・・・。」

とそこまで言って、ナウシカは首を振りました。

「ううん、なんでもない。みんな来て。見せたいものがあるの。」

「え、それってナウシカ・・・・。」

と、アスベルは思わず言いました。ナウシカはアスベルの手を取って言いました。

「いいから来て。」

一同は城の地下室に降りて行きました。ドアを開けて爺は目を見張りました。

「実がなっとる!」

腐海の木に実がつくんか!」

ナウシカはうなずきました。

「かけあわせたの。普通の谷の植物とね。実が本当になるかどうか自信がなかったけど・・・・。」

「これは、食べられるのかの?」

「さあまだそこまでは・・・受粉にはすごく時間がかかったから・・・・。」

ナウシカはそう言うと、「わかるにはもっと長い時間が必要でしょうね」とも言いました。そして、

「でも、腐海の植物たちはすごく強くて繁殖力もあるから、いつかそれが役に立ったらって思ったの。それと・・・・アスベルあなたの言ったようなこと・・・・。」

ナウシカが言うので、アスベルは恥ずかしくなって

「君はあの放棄された研究の噂を聞いて?」

「ええ。確かにあなたの言うように、私の考えた大発見じゃなかったけれど・・・。」

「君は本当に不思議な人だなあ・・・・。」

「うち捨てられたものを見ると、胸が痛んで・・・・それだけ・・・・。」

そこでおじいたちは声を張り上げて言いました。

「姫様、その話はもうそのぐらいにしてお茶にしましょう。さあさあみんなでお茶にしましょう!」

そしてみんなでナウシカの背中を押して行きました。アスベルはあわててあとを追いかけました。

ナウシカは騒ぐ一同に押されながら、その時考えました。

(でも、私ももし知らなかったらその話を信じることはすぐにはできなかった。そう・・・あの光景を見なかったら・・・。)

 

ユパに連れられてはじめてメーヴェで飛行散歩をしたとき、彼女は一人でその光景を見たのです。ふつうの植物の横に腐海の植物が生えている場所を。仲良くふたつの植物が並んでいる光景を。

 

(どうしてあの植物は枯れていなかったんだろう。あの場所はどこだったんだろう。)

彼女はそれをはっきりとは思い出せないのでした。そしてナウシカはその腐海のその場所を、私の忘れられた小さな思い出、と名付けたのでした。それは、今から何年も前の、まだ彼女の小さな頃のことです―――。

 

おわり